~愛すべき「本格ミステリ」の世界~

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音倉誓示(Otokura Seiji)

Author:音倉誓示(Otokura Seiji)
魅力的な謎。論理的な解決。そして少しの遊び心♪
「本格ミステリ」の魅力が少しでも多くの人に伝わりますように。
元、某地方書店チェーンの店長。
九州在住。

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20世紀の幽霊たち (小学館文庫)20世紀の幽霊たち (小学館文庫)
(2008/09/05)
ジョー ヒル

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奇妙な噂がささやかれる映画館があった。隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥いて血まみれになった“あの女”だった。四年前『オズの魔法使い』上映中に一九歳の少女を襲った出来事とは!?(『二十世紀の幽霊』)そのほか、ある朝突然昆虫に変身する男を描く『蝗の歌をきくがよい』、段ボールでつくられた精密な要塞に迷い込まされる怪異を描く『自発的入院』など…。デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の三冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。

ちょっとミステリ以外の本が続いていますが・・・。

今回は、ホラー作家であるジョー・ヒルの「20世紀の幽霊たち」という中・短編集です。

近年世界中で高い評価を受けている「ジョー・ヒル」の作品集で、海外では限定版のみに収録された作品なども収めてある、日本オリジナルの「決定版」。

本人は極力伏せているようですが、彼はあの「スティーヴン・キング」の二男です。

さてさて、その作品は・・・。


「年間ホラー傑作選」

まさに冒頭を飾るにふさわしい一篇。

「アメリカ年間ホラー傑作選」というアンソロジーの編者である主人公は、郵送で送られてきたある作品に興味を持ち、何とか著者と連絡を取ろうとします。

ようやく住所をつきとめた主人公は彼の自宅を訪れますが、そこで待っていたのは・・・。


ホラー作家らしい、いかにも、な薄気味悪い作品でした。



「二十世紀の幽霊」

女の幽霊がでるという噂がある映画館。

その映画館の現在の経営者であるアレックは、その幽霊を最初に目撃した人物の一人だった。


アレックが見た幽霊や、彼がこの映画館の経営者になるまでのいきさつが、回想シーンを挟みながら数々の名作映画とともに語られていきます。

ノスタルジックな映画たちが次々に登場するこの物語ですが、そのラストシーンも、非常に映画的で印象に残るものでした。



「ポップ・アート」

この作品には驚かされました!

この「20世紀の幽霊たち」の序文でも「至高の域に達するとびきりの大傑作」と絶賛されていますので、一体どんな作品だろうと思っていましたが・・・。

まさか、少年と空気人形との友情物語で自分が涙ぐむ事になるとは予想も出来ませんでした。



「蝗(いなご)の歌をきくがよい」

あのフランツ・カフカの「変身」の主人公であるグレーゴル・ザムザは、ある朝目を覚ますと一匹の巨大な虫になっていました。

そしてこのジョー・ヒルの「蝗の歌をきくがよい」の主人公であるフランシス・ケイは、ある朝目を覚ますと一匹の巨大なイナゴになっていたのです!

しかし、フランシスがグレーゴルと違っているのはその姿だけではなく、なんと彼(フランシス)はこの現実を喜んで受け入れているから驚きです。

グレーゴルのように不気味に変身した身の上を嘆くのではなく、数々のモンスター映画を愛するフランシスは、新しい体を得て喜々として飛び回り、家族や同級生を惨殺してまわります。

う~ん、エグい。



「アブラハムの息子たち」

これは、ジョー・ヒルが「ヴァン・ヘルシング教授のさまざまな顔」というアンソロジーに寄稿した作品だそうです。

この作品では、晩年のヴァン・ヘルシング教授とその2人の息子たちが登場し、吸血鬼殺しの技法を教えようとする父親と、吸血鬼の存在そのものを中々受け入れられない息子たちとの様々な葛藤が描かれています。

結末は非常に衝撃的でした。




「うちよりここのほうが」

野球監督をしているパパと、他の子と違う少し個性的な僕。

ホラーやダークファンタジーの作品集の中にありながら、親子・家族の関係を描いた、心に染みる純文学でした。

忘れられない、家族との思い出。

あなたの一番の思い出は何ですか?



「黒電話」

著者によると「うちよりここのほうが」「黒電話」「挟殺」で「野球ミニ3部作」なのだそうですが、この「黒電話」は「うちよりここのほうが」とは打って変わって、ダークで残酷な話に仕上がっています。

ある日、見知らぬ男から突然誘拐・監禁された、主人公の少年ジョン・フィニイ。

閉じ込められた地下室には、どこにも繋がっていない1台の黒電話が・・・。


この文庫には、雑誌掲載時には削除されていたという幻の後日談も収録されています。



「挟殺」

いつものように問題を起こしてしまい、アルバイトを突然クビになった青年ワイアットは、自宅に帰る途中の人気のない木立の中で見覚えのある一台の車を発見します。

その車に乗っていたのは、喉を切り裂かれ血を流す子供と、その子を抱き抱える母親。

母親は、「見知らぬ男に襲われた」とワイアットに訴えますが、その手にはナイフが・・・。

瀕死の子供の手当てをしながら、半狂乱の母親を振り切って、何とか助けを呼びに行くワイアット。

学生時代、盗塁に失敗して1塁と2塁に挟まれた時と同じように、絶望的な感覚を味わいながらワイアットは走り続けます・・。



「マント」

色褪せた毛布をマントにして遊ぶ主人公の少年。

ある日、登っていた木の枝が折れて宙に投げ出された主人公ですが・・。

母親や彼女との現実的な問題を描きながらも、どこかファンタジックな作品でした。

ちなみに著者のジョー・ヒルは、以前マーヴェル・コミックスのために「スパイダーマン」の原作を執筆したこともあるそうです。



「末期の吐息」

「聴死器」を使って収集した、様々な人々の「末期の吐息」を展示している博物館を訪れた3人の親子。

ここには「ポー」や「ロアルド・ダール」の末期の吐息も収蔵されているようです。

興味津々の父親や息子と違い、全く信じようとしない母親はこの博物館を出て行こうとしますが・・。

少年の最後の行動が皮肉に満ち溢れていて、個人的には非常に好みの作品でした。



「死樹」

収録作品中最短、何と3ページの掌編。

著者曰く「この作品がどのように誕生したのか、作品の裏にある創作の苦しみ、困難を克服した瞬間、頓挫、霊感などについて語ることもできなくはない」、が、そんな事をすると作品そのものより長くなってしまうので、やめておくそうです



「寡婦の朝食」

放浪者である主人公のキリアンは、流浪の旅の相棒であったゲージを亡くし、やむを得ずそのまま一人で旅を続けます。

その途中、キリアンは食べ物を恵んでもらおうと一軒の民家を訪問しますが、夫を亡くし、その家で娘たちと暮らしていたこの家の未亡人は、キリアンに食事を振る舞い、しかもボロボロの衣服を纏ったキリアンが、亡くなった夫と服のサイズが同じぐらいという事で、親切にも服や靴まで恵んでくれます。

この家の幼い娘たちは裏庭のすぐ近くの森で遊んでいたのですが、彼女達は、また旅を続けようと歩き始めていたキリアンを見つけ、遊びに加わるように誘ってきます。

その長女が放った、最後の一言!

「末期の吐息」と同じく、ラストが非常に気に入りました。



「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」

ゾンビ映画にエキストラとして出演するための特殊メイクを終えたボビーは、同じくエキストラとしてその場に居合わせた昔の彼女、ハリエットと再開します。

役者になる夢が挫折し、田舎に戻ってきていたボビー。

すでに結婚していて子供もいるハリエット。

そして、低予算ながら何とかいいゾンビ映画を作ろうとし、最高のシーンを求める、ジョージ・ロメロ監督。

その別々の3人の思いが一つに収束したラストシーンの会話は秀逸です。



「おとうさんの仮面」

突然、両親とともに別荘に泊まりに行くことになったジャック少年。

別荘ではなぜか仮面を付けるように勧められるジャックですが・・。


少年の目を通して、大人たちのいびつな部分が次々と語られていきます。

そして最後にはジャック少年も・・・。



「自発的入院」

男の子なら誰でも、ティッシュの箱やダンボールを使って色々な工作をした経験があるのではないでしょうか(我が家の息子たちも毎日「箱ちょうだい!」と叫んでいます・・)。

しかし、ある種の天才が作ったダンボールの迷路が、実は異次元に繋がっているとしたら・・・。

日常の風景が突如ダークファンタジーに変貌する、まさにこの作品集随一の力作です。



「救われしもの」

3年がかりでやっと手に入れた車に乗り、別居中の妻と娘の元へ向かう主人公。

極寒の季節に車を飛ばす主人公ですが、途中で奇妙なヒッチハイカーを拾ってしまったり、やっとの思いで辿り着いた妻の実家でも冷たくあしらわれ、更に帰り道ではその車までも失ってしまいます。

タイトルとは違い、救われない物語だった気がするのですが・・



本をたくさん読み、なおかつ仕事も出来る!という稀有な存在(?)の先輩に紹介されて手に取った本書ですが、「ホラー作家」という肩書きにもかかわらず、非常に文学的な作品が多かったのが意外でした。

私の知識不足・読解力不足により、的外れな感想になっている部分はご容赦くださいませ。

たまにミステリ以外の本を読むのも、視野が広がる気がしていいものです(先日も同じような事を書いたような気が・・)。



しかし、長かった・・。







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2008/12/25 23:54|・その他TB:0CM:0

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