~愛すべき「本格ミステリ」の世界~

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音倉誓示(Otokura Seiji)

Author:音倉誓示(Otokura Seiji)
魅力的な謎。論理的な解決。そして少しの遊び心♪
「本格ミステリ」の魅力が少しでも多くの人に伝わりますように。
元、某地方書店チェーンの店長。
九州在住。

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完全恋愛完全恋愛
(2008/01/31)
牧 薩次

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昭和20年…アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した。昭和43年…ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く。昭和62年…「彼」は同時に二ヶ所に出現した。平成19年…そして、最後に名探偵が登場する。推理作家協会賞受賞の「トリックの名手」T・Mがあえて別名義で書き下ろした究極の恋愛小説+本格ミステリ1000枚。

第9回本格ミステリ大賞の候補作の一つ、牧薩次辻真先)さんの「完全恋愛」(マガジンハウス)を読みました。

昨年からずっと話題になっていた作品ですので近いうちに読みたいと思いながらもなぜか後回しになっていたのですが、さすがに候補作も読まずに公開開票式に行くわけにもいきませんので早速(ようやく?)読んでみました。


他者にその存在さえ知られない罪を
完全犯罪と呼ぶ
では
他者にその存在さえ知られない恋は
完全恋愛と呼ばれるべきか?



という印象的な文章で始まるこの物語。

少しメタな話になりますが、この作品は辻真先さんが生み出したキャラクターである「牧薩次」(文英社主宰の「第1回みすてり大賞」を受賞したミステリ作家)が「柳楽糺(なぎらただす)」という画家の生涯を書いた物語です。

辻真先」は「牧薩次」のアナグラムだったりする(いやむしろ逆か?)のですが、長くなるのでここでは割愛します。


画家である「柳楽糺」、本名「本庄究(ほんじょうきわむ)」は、少年時代に東京の大空襲で両親や妹を失い、福島県の誉村(ほまれむら)という所で温泉旅館を経営している伯父に引き取られて暮らしていました。

地元の名家である伯父の家には有名な「小仏(こぼとけ)画伯」が居候しており、究少年は小仏画伯の娘である「朋音(ともね)」に淡い恋心を抱きます。

やがて終戦を迎え、伯父の経営する温泉旅館「刀掛(かたなかけ)本館」には進駐軍が出入りするようになりますが、傍若無人な振る舞いを続けていたジェイク大尉がある日何者かに殺害されます。

犯人は?

そして消えた凶器は?

究少年の生涯忘れ得ぬ思い出の出来事とともに、第1章は幕を閉じます。


その後、朋音は「真刈夕馬(まかりゆうま)」という闇成金に強引に嫁に貰われていき、また小仏画伯に才能を見いだされた究は「柳楽糺」の名を得て、師匠の世話をしながらいくつかの作品を世に送り出していきます。

そんなある日、究は朋音の娘である「火菜(ひな)」を夕馬の子ではなく自分の子だと確信するのですが・・。


少年時代に抱いた朋音への想いを一生貫いていく究。

そしてその身の回りで起こる不可解な事件。



柳楽糺(本庄究)という一人の人間を通して、終戦から平成の世までを――時に現実に起きた出来事を織り交ぜながら――書ききり、壮大な物語でありながら少しもその長さを感じさせない辺りはさすが大ベテランです。

物語の要所要所で発生する大きな謎も、序盤の消えた凶器を筆頭に、2300キロの距離をワープしたとしか思えないナイフ、そして2か所に同時に出現したとしか思えない「彼」、とあの手この手で読者を煙に巻き魅力的な世界へいざなってくれます。

何より嬉しいのは、画家の一代記とも恋愛小説とも読めるこの作品があくまで「本格ミステリ」としての骨格をしっかりと持っており、またそのミステリとしての伏線やいくつかのトリッキーな技が時代背景や登場人物の心情と非常に有機的に融合している事です。

この時代や、この人間関係だからこそ違和感なく成立するトリック。

物理的なもの、心情的なもの、運命的なもの、それぞれにベテラン作家の老練の技が光ります。

終盤のアリバイトリックなどは、一歩間違えば三流ミステリの非常にご都合主義的な真相になりそうな所を、序盤のあるシーンを伏線とする事で逆に大きな驚きを読者に与える事に成功していますし、さらにこの物語全体を覆い尽くす最大の、そして真の「完全恋愛」についても――「刀掛本館」を襲ったあの出来事の場面にさりげなく埋め込まれた一文でその可能性に気付いてしまったとはいえ――やはり非常に素晴らしい趣向であり、ミステリ小説の白眉であると考えます。


この切なく真面目な物語の中にも、蟻巣・チェシャ猫・ポテト・スーパー・夕刊サン、とこの著者らしい遊び心がふんだんに盛り込まれており、ともすれば重くなりがちな話の中で一服の清涼剤として読者に微笑みを与えてくれたのも見逃せない所です。


本格ミステリ大賞候補作、さすがでした。







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2009/04/23 23:47|・辻真先(牧薩次)TB:0CM:0

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