~愛すべき「本格ミステリ」の世界~

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音倉誓示(Otokura Seiji)

Author:音倉誓示(Otokura Seiji)
魅力的な謎。論理的な解決。そして少しの遊び心♪
「本格ミステリ」の魅力が少しでも多くの人に伝わりますように。
元、某地方書店チェーンの店長。
九州在住。

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そして名探偵は生まれた (祥伝社文庫 う 2-3)そして名探偵は生まれた (祥伝社文庫 う 2-3)
(2009/02/06)
歌野 晶午

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三月には珍しい雪の日、伊豆の山荘で惨劇は起こった。新興企業アラミツ・グループが所有する保養所・萩宮荘で、若き総帥・荒垣美都夫が撲殺されたのだ。ここは歴代の所有者が次々と不幸に襲われたという呪われた山荘だった。殺害現場となったホールは完全な密室状態だった。外部からは争う物音が確認されたが、現場に入ってみると荒垣の死体しかなかった。ホールの窓の外は降り積もった雪が逃走した者がいないことを証明している。犯人はどこへ消えたのか?社内懇親会で集められた二十人の中に犯人が?

祥伝社文庫から2月に発売になった、歌野晶午さんの「そして名探偵は生まれた」を読みました。

この文庫には、

「無人島」テーマの競作として書かれた「生存者、一名」。

「“館”ミステリー」というテーマで書かれた「館という名の楽園で」。

上記2作とともに「歌野晶午が贈る三大密室トリック」と銘打たれて、単行本用に書き下ろされた表題作「そして名探偵は生まれた」。

さらにボーナス・トラックとして、以前二階堂黎人さんが編んだアンソロジー「密室殺人大百科(下)」に書き下ろされた作品「夏の雪、冬のサンバ」。

の4編が収録されています。


そして名探偵は生まれた

主人公は、まさに小説から抜け出してきたかのような名探偵「影浦速水」・・・の助手兼世話係である「武邑大空」。

師匠(?)である名探偵影浦は「帝国海軍の密使事件」「月の宮殺人事件」「四国剣山胎内洞逆十字架事件」「空中伽藍の四重密室」「呪いの十三点鐘事件」「トランク詰めの花嫁、伊豆-磐梯-軽井沢殺人トライアングル」「天狗教ピラミッドの百死体」・・といった数々の難事件を解決に導いた、まさに名探偵の中の名探偵です!

しかし現実は厳しい。

一民間人が警察の捜査に参加している事を世間には公表出来ないため、名探偵はあくまで黒子的な存在。

関係者のプライバシーの問題もあって事件に関する話をすることも禁じられています。

過去に事件の顛末を一冊の本にまとめて上梓した時は、プライバシーの侵害に当たると被害者・加害者双方の遺族から訴えられたあげくに賠償金を支払わされ、それならと別の事件をすべて架空の地名や名前でフィクション小説として発表した際も、モデルを特定できるからと人権侵害で訴えられ・・・せっかくの能力を世に知らしめる事の出来ない彼はすっかりやさぐれてしまい、助手である主人公に愚痴をこぼしまくる毎日です。


そんなある日、2人は事件解決のお礼としてある実業家から山荘でのパーティーに呼ばれます。

しかしそこで発生する密室殺人!

ところが「報酬が出ないから」と推理をしない名探偵影浦!

そしてこの名探偵にも殺人犯の魔の手が伸びてきて・・。


いや~最初から最後まで「名探偵もの」に対するパロディという印象のこの作品ですが、さすがにトリックや伏線など、本格としての骨組みはしっかりしています。

大掛かりなトリックは初期のあの作品を思い起こさせますが、何はともあれ最後まで読んでこのタイトルの意味に納得しました。

ちょっと強引な感のあるダイイングメッセージも、こういう真相なら納得です。

序盤の、ミステリ小説好きのOL2人の掛け合いが面白かった。


「生存者、一名」

この作品は、主人公である「大竹三春」が瀕死の状態で書いた手記、という形式で語られており、所々にそれを補う形で報道記事が挟み込まれています。

まず冒頭に挿入された報道記事で、鹿児島県警や海上自衛隊が「屍島(かばねじま)」における捜索活動を「生存者1名、死者5名」で打ち切った事が明かされていますが・・。


宗教団体「真の道福音協会」の信者である大竹三春は、神の思し召しを受けた教祖の指示により、腐った世の中を浄化するためJRの駅を爆破するテロを行い、悪魔の手先である警察から逃げています。

教団はそんな彼女たちに「屍島」という無人島を一時的な潜伏先として用意してくれ、教団のナンバーフォーである「関口司教」とそのカバン持ちの「稲村裕次郎」、そしてテロの実行犯である三春たち4名の計6名は十分な食料を積み込んだクルーザーでその島に渡ります。

しかし島に上陸した翌日に関口司教がクルーザーとともに姿をくらまし、残ったメンバーも、ある者は殺され、またある者は行方が分からなくなり、そして最後に生き残るのは・・・。


終盤の「ある意外な真相」は二階堂黎人さんと黒田研二さんの合作であるあの作品を思い出しましたが、それにしても一部の報道記事の表現がきわどい。

歌野晶午さんが、地の文(報道記事)で嘘をつかないように注意しつつ、なおかつ読者にたくらみがバレないように苦心しているのがよく分かります。


論理的に全てが解決されるタイプのミステリではありませんが、最後に明かされた唯一の生存者の「名前」が、読者の想像力をかきたてます。


「館という名の楽園で」

大学を卒業してから二十余年、N大学探偵小説研究会OBの冬木統一郎は長年の夢を叶えついに「館」を建てます。

野球少年が甲子園に出場しプロを目指すように、ギター少年が軽音楽部でライブに明け暮れメジャーデビューを目指すように、探偵小説愛好家の冬木は「館」に住むことを夢見ていました。

そして冬木の大学時代の仲間4人の元へ、「三星館」と名付けられたその館への招待状が送られてきます。

黒塗りのリムジンと銀髪の執事に出迎えられた4人は戸惑いながらも旧友との再会を喜びますが、館で待っていたのは冬木が用意した推理劇。

曰く――「奇妙な殺人事件は奇妙な構造の館で起きる」。


メインのトリックは館を紹介している段階でほぼ予想がつきましたが、これを実際に錯誤させるのはちょっと厳しいのでは。


ただ、シリアスな結末には胸を締め付けられました。


「夏の雪、冬のサンバ」

「あの泥棒が羨ましい」――江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」からの引用で幕を開ける物語。

東京の片隅、築数十年の第一柏木荘に住む「キノシタ」は、同じアパートに住む「ドラゴン」が連続ATM荒らしの犯人であると確信し、2月19日、それを奪おうとサバイバルナイフを持ってドラゴンの部屋を訪れます――。

このアパートには外国人が多く住んでおり、アフリカ系ブラジル人の「ペレ」、ユダヤ人の「ダビデ」、インドネシア人の「バロン」、日本人の「ショーグン」、中国人の「ドラゴン」、アルゼンチン人の「ゲバラ」、ペルー人の「インティ」、イラン人の「アリババ」とお互いがあだ名で呼び合っています。

そして2月19日、ペレの部屋で酔いつぶれていたダビデの元に、ドラゴンの他殺死体を発見してパニックになっているバロンが飛び込んできます。

不法入国者や不法滞在者も多く、出来れば警察は呼びたくない。

積もった雪の上にある足跡は外からアパートに向かっているものばかりで、何者かがアパートから出て行った形跡はない。

困ったダビデは高額の報酬をエサに、知り合いの私立探偵を呼び出します(報酬に関するアレはちょっとベタでしたが・・)。

調査の結果このアパート自体が密室状態だった事が分かり、犯人は住人に絞られて・・。


アリバイに関する意外な錯誤は、のちにあの長編でも使われているのと同じタイプですね。

登場人物や舞台となっているアパートの状況がすべて意外な真相と有機的に結びついていて、この辺りの技巧はさすが歌野晶午さんといった所です。

巻末の解説で日下三蔵さんも書かれていますが、登場人物同士のちょっとした会話などにも著者がいかにフェアに読者を騙そうとしているかが見て取れて、本当に隅々まで言葉をよく選んで書かれている作品だと感じました。


このところ「探偵Xからの挑戦状!」の記事が忙しくて肝心の本の紹介&感想が滞っていましたが・・・やっとアップできた。







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2009/04/07 01:29|・歌野晶午TB:0CM:2

コメント

私も読みました。
「生存者、一名」が一番好きですね。
いい作家なのに一般知名度がいまいち低いと思われる歌野先生ですが、どんどん紹介してもっと知ってもらいましょう!
コンサ #-|2009/04/08(水) 20:57 [ 編集 ]

お久しぶりです!
最近コメントを残していませんが、ちょくちょく読ませて頂いてますよ~。
私は「館という名の~」がマニアックなネタが多くて好きでした。
コンサさんのブログを読んで森見登美彦さんの作品が読んでみたくなった今日この頃です(^^)
音倉誓示 #-|2009/04/08(水) 23:13 [ 編集 ]

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